愛と平和とフランス語

ほとんど自分のためのフランス語学習記録&ときどき時事問題

「空気を読むべきではない」の見本

良く訳のわからないタイトルですよね。後ほど説明いたします。

 

先日のレッスンで、とうとう、ゾラのAu Bonheur des Damesを読み終わりました。

レッスン前にはチャプターを読み終わるごとにレジュメを書き、レッスンではその添削と、内容について話し合ったりと、それはそれは楽しいレッスンで、読み終わるのが寂しかったほどです。

 

 

次回のレッスンまでに全体を通した感想文を書くことになっているのですが、その前に、以前買っていて気になっていたヴァネッサ・スプリンゴラの「Le Consentement (同意)」を読み始めてしまい、結局今日までの5日間で読み終わってしまいました。

 

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この本の出版から35年ほど前、ヴァネッサは、14歳になる直前に作家のガブリエル・マツネフと出逢います。母親が出版社で働いていて、その関係のディナーでのことです。

 

その時すでに50歳近いマツネフは小児性愛者で、それを隠すことなくネタとして本に書き、信じられないことに、当時は高い評価を受け得ている人気作家だったのですが、ヴァネッサはまだそのことを知りません。

 

親は離婚し、母親からの愛情にも乏しかった彼女は、彼の格好の餌食となります。

 

二人で会ったその日に彼の仕事部屋へ連れて行かれ、それ以降、毎日学校が終わる頃に校門で待っているマツネフ。

これを恋愛だと思ってしまうのも無理ないこと。しかも、彼女は作家になりたいと思っていたので、余計に彼が魅力的に映ったことでしょう。

 

 

どんどん外の世界から引き離され、マツネフしか見えなくなるヴァネッサですが、彼がマニラまで行って、10歳前後の男の子を弄んでいることを知り、違和感を覚え始め、それから長い苦しみの後、30年以上経ってからこの本を上梓することになりました。

 

 

それでやっと、タイトルの説明なんですが、あるテレビ番組で、マツネフが小児性愛について話しています。

 

「どうして未成年専門なんですか?」

 

「少女は優しいからね。大人の女は頑なで、すぐヒステリックに喚くからね」

 

他の参加者からもいやらしい笑いが起きます。

 

その時、キッパリと彼の性癖に意を唱えたのがカナダの作家ドゥニーズ・ボンバルディエ女史です。

 

3分少々ですので、どうぞご覧ください。

 


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「私、別の世界にいるような気がするわ。あなたのしてることは、全くひどいことよ。自分の名声を利用して女の子を餌食にしているだけよ。」

 

 

ときっぱり言っています。

 

 

ですが、彼女に同意する人は誰もいません。

 

 

それでも、「少女との愛の文学だ」と顔色を変えて反論するマツネフに、

 

「文学を言い訳に使うべきじゃないわ。文学にも超えてはいけない則があるわ」と主張します。

 

 

私はこの動画を何度も見ました。この勇気を見習いたいと思うのです。

 

人を貶めたり差別したりする発言をよく見聞きしますよね。それがネットで炎上して初めてヤバいと気がつくのか、謝罪、となりますが、そもそもその発言や行動があった時、周囲の人もそれを許しているではないですか。

 

 

例えば、名古屋の河村市長が金メダルを噛んだ映像が何度も流され、問題になっていましたが、あれ、見てみたら、その時の取材陣、笑ってるじゃないですか。

 

確かにその時に「それはおかしいですよ!」というのはすごく勇気がいるでしょう。

私自身、その場にいたら、言えるかどうか自信がありません。

 

 

だからこそ、「空気を読むべきでない」のお手本として、この時のDenise Bonbardierの勇気を見習いたいと思うのです。

 

 

さて、この本は日本語訳もあり、このアマゾンの紹介文では

スプリンゴラはなぜいま、35年前の出来事を書くことになったのか。それは、Gへの復讐である。」

 

 と書いてあるんだけど、「復讐のつもりで書いた」なんて、書いてあったっけなあ・・・?すごい勢いで読んじゃったから、見落としたかな?

 

 

でも、私が読み取ったところでは、「復讐」ではなく、区切りをつけるとか、自分自身の再生のため、と感じました。そして、他の被害者のため。

 

 

écrire était sans doue le meilleur des remèdes.

書くことが一番の薬だった、と書いてあります。

 

 

「性行為の同意年齢」について、日本でも議論がされていますが、この本は当事者の貴重な体験として、多くの方に読まれるべき本だと思いました。

 

 

マツネフ自身も子供の頃、大人に性的なことをされたとも書いてありました。

 

 

最後に、フランス語的に面白かったところを一つ紹介します。

 

付き合い出してしばらくした頃、突然関節が痛みだし、動けなくなって入院することになりました。

 

その時の精神分析医の言葉です。

 

「その痛みはどこから始まったの?」と聞かれたヴァネッサが「膝から」と答えると、医者は"C'est intéressant" と言います。

 

- Ah bon, c'est intéressant, les genoux ?

 

- Qu'est-ce que tu entends dans le mot "genoux", hein ? Si tu dé-com-poses le mot "genoux" ? Il y a je et il y a nous, et ton problème, c'est bien un problème de "rhumatismes articulires", donc... tu serais d'accord avec moi pour dire que tu as un problème d'"articulation" entre le "je" et le "nous", n'est-ce pas ?

 

確かに、膝(genoux)は私(je)と私たち(nous)の発音と同じですもんね。それで、ヴァネッサ自身と、ヴァネッサと彼との関係(関節)の問題、と。

 

この部分、訳はどうなってるんでしょうね・・・?

 

 

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