愛と平和とフランス語

ほとんど自分のためのフランス語学習記録&ときどき時事問題

Les Délices de Tokyoー心に残る言葉

途中まで読んでいたフィリップ・ルメートルの「炎の色」を中断してドリアン助川の「あん」のフランス語版 [Les Délices de Tokyo] を読みました。何年か前、映画を見て大好きになった物語ですが、本は読んでいませんでした。たまたま8月末に東京へ行った時、フランス語関連書籍の専門店「欧明社」で見つけました。物語のあらすじはここには書きませんので、ご存知ない方は最後の方につけた映画「あん」の予告編をご覧ください。

Les delices de Tokyo

Les delices de Tokyo

 

映画自体とても良くできていましたし、ストーリーもほぼそのままでしたけれど、やはり文章で読むとまた、丁寧に味わえる気がします。 

Tokue(徳江)がSentaro(千太郎)へ宛てた手紙の中から少し抜粋します。日本語は私がつけたものなので、正確ではないかもしれません。気になる方は訳本でご確認ください。

【J'igonore combien de fois j'ai souhaité mourir. Sans doute qu'en mon for intérieur, j'estimais que ceux qui ne rendent pas service à la société ne valent rien. Parce que j'avais la conviction que les hommes naissent pour être utiles.

私は何度死にたいと思ったかしれません。おそらく私の中で、社会に貢献できない人間は価値がないと思っていたのでしょう。人は社会の役に立つために生まれてくるのだと固く信じていたのですから。

教師になりたかったその夢を諦め、社会から隔離された徳江はそんな思いで生きてきたのです。でも、ある時、施設の中の木々に囲まれて月を眺めている時、ふとこれまでと違った気持ちが沸き起こってきます。

【Comme elle est belle, pensai-je. Fascinée, j'en oubliai même que je luttais contre une maladie terrible et que je ne pouvais pas sortir de cette enceinte.

Et alors, il m'a vraiment semblé l'entendre. J'ai eu l'impression que la lune s'adressait à moi dans un murmure. 

Je voulais que tu me voies.

C'est pour cela que je brille.

なんて美しい月。うっとりとして、私は自分が重い病と闘っていること、そしてこの囲いから出られないのだということさえ忘れていました。そして、聞こえたのです。月が私にこう囁いているように感じました。

ーあなたに見て欲しいと思っていたのですよ。そのために、私は輝いているのー

 千太郎に呼びかける徳江の手紙はこう続きます。

 【Nous sommes nés pour regarder ce monde, pour l'écouter. C’est tout ce qu'il demande. Et donc, même si je ne pouvais pas devenir professeur, ni travailler, ma venue au monde avait un sens.

私たちはこの世界を見るために、この世界を聞くために生まれてきたのです。私たちに求められているのはそれだけ。だから、私がたとえ教師になれなくても、働くことができなくても、私がこの世に生まれてきた意味はあるのです。

映画で見た時もボロ泣きでしたが、フランス語で読んでも、やはり美しいです。映画も本も、オススメです。


Les délices de Tokyo- Bande Annonce VOST

 


映画『あん』予告編

 こちらはこの本を紹介している動画です。今はいろんな動画、みなさん作っているんですね〜。中で、このかた、「翻訳があまり美しくない」と言っていますが、私にはまだ、その良し悪しを判断できるほどはわかっていません。


Critique littéraire #1 : LES DELICES DE TOKYO DE DURIAN SUKEGAWA